認知症

大学病院に勤務している時、教授が
「うつ病」と診断した75歳女性が
入院することになり、私が病棟主治医

となりました。

非常にしっかりされた方で、
「もう死にたくなってしまった」
「全く眠れなくなってしまった」
と自分からはっきりとおっしゃいます。

もちろん、既に「うつ病」と診断されているので、
抗うつ剤のトレドミン30mgを投与しました。

しかし、何か普通のうつ病とは違う、という
感じを抱いたのも事実です。

病棟で身体検査を順番に行っていき、
頭部CTの画像で、よくよく注意して
みなければ、見落としてしまうような
小さな脳梗塞をいくつも発見しました。

すぐに、頭部MRI,脳波、SPECT(脳血流シンチ)の
検査を行い、結果「多発性ラクナ梗塞」
であることがわかりました。

入院2週間目より、会話のつじつまが合わなく
なってきて、入院時のしっかりとした話しぶり
はどこへやらという状態になってきました。

臨床心理士介入で、認知症の判定検査を
綿密に行い、その結果、
「中等度に認知症が進行している」
ことが判明しました。

脳波、頭部MRI,SPECT(脳血流シンチ)の
結果も含めて、「うつ病」ではなく、
「脳血管性認知症」と診断を変更せざるを
得なくなりました。

「脳血管性認知症」は「アルツハイマー型認知症」
と違い、認知症状の進行が、急激でなく段階的、
またいい時と悪い時とまだらな状態を示すため、
初期には見逃されがちです。

また、認知症の初期には、かなりの割合で
抑うつ的になります。

この患者さんの場合、そうした認知症状よりも
うつ症状が前面に出てしまったケースです。

「認知症」の患者さんに、一定量以上の抗うつ剤
を投与することは、認知症の進行を早めてしまう
ことになるので、早速、抗うつ剤は中止しました。

その代わり、脳血流代謝改善薬を調整投与していきました。

その後は明らかに認知症の症状が目立ってきて、
うつ病を思わせる症状は消え去っていきました。

この患者さんは、一人暮らしであったため、
退院後の長期入所施設の手配をしました。