反応性うつ病の治療

その患者さんが入院後、ご家族についても詳しくお話を聞く
機会がありました。

聞けば、31歳の長男は、5年前に結婚し、現在3歳になる

娘さんもいらっしゃるとのこと。

しかし、最近では妻との不和から結婚生活も破綻寸前で、
仕事にも無断欠勤しがちだったとのこと。

亡くなる2ヶ月前から妻、娘とは別居して、実家に戻り、
引きこもりがちの生活をしていたそうです。

当日、その患者さんは自治会の集まりで昼から出かけており、
夕方帰宅してみると、長男が自室で首を吊っていたという
のです。

「長男もうつ病にかかっていたんだろうな。」
というのが指導医の先生の見立てです。

その患者さんは、母親である自分が、わが子の病んだ心
の状態に気づいてあげられなかったことに対して
自分のことを責めていました。

同時に
「自分の命をこんなにも粗末にできるものかな?」
と長男に対してもぶつけようのない怒りを
感じていらっしゃることもわかりました。

その患者さんには希死念慮はありませんでした。

「自分も死んでしまおうという気持ちはない。
かえって、自分は頑張って生きていかないと、
と思っている」
と話されました。

入院中は多少薬を増やしはしましたが、退院時には
再び抗うつ剤のトレドミン25mg、
睡眠薬のレンドルミン0.25mg
に戻りました。

入院期間3ヶ月中に、その患者さんには喪失感を
乗り越える精神療法を行いました。

いくつか提示した中から、患者さんが選ばれたものは、
自ら命を絶った長男に向けて、母親としての思い、
メッセージをこめながら千羽鶴を折りあげる、
というものでした。

千羽のうち一羽として、人の助けを借りずに自分で
折りあげる、と約束しました。

これは、母親から亡くなった長男への約束でもあります。

千羽鶴を完成させるまで、退院も外泊もさせませんでした。
家に戻ると、つい雑事に追われて、心の整理を乱される
可能性があったからです。

千羽鶴を完成して退院した後も、外来に通っていただきました。

長男は亡くなってしまったけど、まだまだ母親として
してあげられることはたくさんある、
ということに、その患者さんは自分から気づかれました。

自分で折った千羽鶴は長男の仏壇の前に飾られたそうです。

長男の1周期を終えて、その患者さんのうつ病治療も
終了しました。