うつ病の診断と治療は流動的

現在はうつ病に対する情報が豊富に出回っているため、
みなさんの中には「うつ病」の診断基準について
明確に把握できている方もいらっしゃることでしょう。


もし、うつ病について、診断も含め大事な知識を得たい、
とお考えならば、製薬会社「ヤンセンファーマ株式会社」
より運営されている以下のサイトがわかりやすくて
参考になると思います。

メンタルナビ
http://www.mental-navi.net/utsu/shindan/index.html

私も診断にはよく「DSM-Ⅳ-TR」を利用します。

ところで、診断基準を読まれて、
何だか分かりにくい言い回しの言葉が多いなと
感じられた方もいらっしゃるでしょう。

実際にうつ病の患者さんの状態を
診断基準からイメージするのは無理があると思います。

患者さんは、一人一人違う個性や人格を持った生身の人間です。
同じうつ病にかかっても症状の出方は患者さんによって違います。

患者さんが、診断基準に書かれているうつ病の症状を5つ以上、
2週間以上持っている。

だから「うつ病」と診断して、抗うつ剤をはじめとした
うつ病の治療を開始し、うつ病の症状が消えかたら、
治った、あるいは回復期に入ったと判断する。

これではあまりにもワンパターンです。

もし患者さんが、実際にこのように杓子定規的に
「うつ病」と診断され、薬を出されて、治った、
と判断されたらきっと不快に思われることでしょう。

しかし現状では、このようなお粗末な治療しか
受けられていない患者さんが多数存在しているのも事実です。

これでは何のために精神科で治療を受けているのか、
分かりませんね。

うつ病の患者さんだっていろいろな顔を持っています。
診察室で見せる顔がその人の全てではありません。

患者さんの中には不妊治療を頑張って続けている人もいる。

子供が就職できなくて悩んでいる人もいる。

交通事故で足を骨折してリハビリに励んでいる人もいる。

会社で希望する部署に異動したくて仕事を頑張っている
人もいる。

みんなそれぞれ、困っている、あるいは叶えたいな、
と思う事情を抱えながら生きているのです。

その関心事がうまくいった、いかないによって、
うつ的になったり元気になったりして
当たり前なのです。

怪我をした傷なら、きちんと手当をすれば
自然に治っていきます。

でも心の中の悩み、傷は、いい薬を飲んだから治る、
という単純なものではありません。

つまり、精神科で取り扱う診断、治療は、
本当に流動的なものです。

ですから、私も一度うつ病と診断したからといって、
それに固執しないように注意しています。

診断基準はあくまでも念頭においておく参考程度のもの、
要は患者さんが今、何について困っているのか、
常に把握し続けていくことの方が大事です。

逆に多少笑顔を見せたからといって、
うつ病が治りかけているとも判断はしません。

常に五感を駆使して患者さんの状態を把握していれば、
患者さんが必要としている治療を有形無形のもので
提供できるものです。
先を見通すこともできます。

薬物療法、身体面、、患者さんの性格傾向、
家庭的及び社会的環境、を含め多面的にアプローチして
治療にあたる。

そして、患者さんが本当にうつ病を克服したと判断できた時にこそ、
「ああ、この人のうつ病治療のお手伝いができてよかった」
と安堵できるものです。